洲本簡易裁判所 昭和26年(ハ)51号 判決
原告 前川佐七 外二名
被告 湊町里組山林管理組合
一、主 文
原告前川佐七、同前川かじが別紙<省略>第一目録記載の土地に於て、原告前川嘉郎が別紙第二目録記載の土地に於て、各其の所有権に基き松茸を収取する権利を有することを確認する。
被告組合は右各土地に立入り松茸を採取してはならない。
訴訟費用は被告組合の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求める旨申立て、其の請求の原因として、別紙第一目録記載の土地は原告前川佐七、同前川かじの共有に係り、別紙第二目録記載の土地は原告前川嘉郎の所有に属し、原告前川佐七が右各土地の管理に任じ、同土地に於て松茸を採取していたものであるが、昭和二十二年九月中旬頃被告組合からその組合員である訴外河野為一外数名を通じ、原告前川佐七に対し、右各土地に於ける松茸採取の権利を被告組合に無償贈与されたい旨の申入があつたが、原告等は右申入を断りその代り被告組合に対し、金一千円を贈与したもので、其の後も被告組合に右権利を贈与譲渡した事実は無いから、被告の組合は前記土地に於て松茸を採取する権利は無いのである。
然るに被告組合は原告等の意思を誤解したものか、昭和二十三年以降今日に至る迄擅に前記各土地に立入り、同土地に於て、松茸を採取し、原告等に数万円の損失を蒙らしめている。又仮に原告等が前記日時被告組合に対し、前記各土地に於ける松茸採取の権利を贈与したとしても、右は書面によらない贈与であつたから、昭和二十七年三月十九日の本件口頭弁論期日に於て、民法第五百五十条により之が取消しの意思表示をしたから、本件松茸採取権は爾後原告等に復帰したものである。仍て被告組合に対し原告前川佐七、同前川かじが別紙第一目録記載の土地に於て、原告前川嘉郎が別紙第二目録記載の土地に於て各其の所有権に基き松茸を収取する権利を有することの確認を求めると共に、被告組合が右各土地に立入り松茸を採取することの禁止を求める為本訴請求に及ぶと述べた。<立証省略>
被告組合訴訟代理人は、原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として原告等の請求原因事実中別紙第一、第二目録記載の土地が、其の主張の如く原告等の共有並に所有に属し、原告前川佐七が之を管理し松茸を採取していたこと、そして被告組合が原告等主張の日時組合員河野為一外数名を通じ、原告前川佐七に対して其の主張の如き松茸採取の権利を無償贈与されたい旨申入れたことは認めるが、其の余の主張事実は之を否認する。即ち原告等は前示日時、被告組合の右申入に対し、同年以降の松茸採取の権利を贈与する旨約諾したのであるが、其の際当事者合意を以て特に同年度産の松茸は原告等に之を採取させることとし、其の代償として原告等は被告組合に対して、金千円を支払つたのであつて、被告組合は翌昭和二十三年以降は正当な権利の行使として松茸を採取しているのである。尚原告等は右採取権の贈与は書面に依らない贈与であるから民法第五百五十条により之を取消す旨主張しているけれども、民法第五百五十条の法意は軽卒な贈与の取消を許す趣旨であるが、原告等の右贈与は熟慮の上なされたもので、しかも右譲渡は既に現実に履行されて数年になるのであるから贈与の意思は明確にされており、且未履行の部分はないのであるから今更一方的に之を取消すことは許されないと謂うべく原告等の主張は以上いずれの点から観ても失当であると述べた。<立証省略>
三、理 由
別紙第一目録記載の土地が原告前川佐七、同前川かじの共有に係り、同第二目録記載の土地は原告前川嘉郎の所有に属し、原告前川佐七に於て右各土地の管理に当り同土地に於て松茸を採取していたところ、被告組合がその組合員である訴外河野為一外数名を通じ、昭和二十二年九月中旬頃原告前川佐七に対して、右土地に於ける松茸採取の権利を被告組合に贈与されたき旨申入れたことについては当事者間に争いない。原告等は右申入は之を拒否したもので他に贈与譲渡の事実が無いから被告組合には右松茸採取の権利は無い旨主張するので按ずるに、証人竹口秀雄、同河野為一、同下村四郎の各証言を綜合すれば、原告等は前示日時被告組合の前記申入に対して、之を承諾し前記土地産の松茸を採取する権利を被告組合に贈与する旨契約したものであるが、其の際当事者合意を以て昭和二十二年度産の松茸のみについては原告等が之を採取することとし、其の代償として原告等が被告組合に金千円を支払つたこと、爾来被告組合は右土地より松茸を採取する権利を取得し、昭和二十三年度以降之を採取していたこと原告等は昭和二十三年度以降同二十五年度分迄は毎年被告組合から右松茸採取の権利を入札する機会をも与えられていたことが夫々認められるのであつて、以上認定に反する原告本人前川佐七の供述はたやすく措信し難く、他に原告等の主張を肯認するに足る証拠は無いから原告等の前示主張は採用し難い。次に原告等は仮に前記主張が容れられないとしても本件の贈与は書面に依らない贈与であるから、原告等は昭和二十七年三月十九日の本件口頭弁論期日に於て之を取消した旨主張しているから按ずるに、右贈与が書面に依らない贈与であつたことは被告代表者本人の供述によつて明かなところであり、又原告等が昭和二十七年三月十九日の本件口頭弁論期日に於て被告に対し右贈与は書面に依らない贈与であるから民法第五百五十条により之を取消す旨の意思表示を為したことは、本件記録上明かなところである。被告は右取消の効力を争い民法第五百五十条は軽卒な贈与者を保護せんとする規定であるが、本件贈与にあつては昭和二十三年度以降毎年履行せられて贈与の意思も明確にされており、又既に贈与契約は履行せられているのであるから、今更取消すことは許されない旨主張しているけれども、松茸は毎年山林上に発生する天然の副産物であるから被告組合は本件贈与により毎年原告等所有の本件土地上に産出する松茸を採取して収益し得る権利を取得したものであつて、右権利の法律上の性質は暫く之を措くも、要するに右贈与は将来の物の収得を内容とする継続的な法律関係であるから、未だ履行の終らない将来の部分については民法第五百五十条により之を取消し得るものと解すべきである。
然らば原告等の被告組合に対する本件贈与契約は前記取消の意思表示により昭和二十七年三月十九日を以て将来に向つて取消され、被告組合は同日以降本件土地上に於て松茸を収取すべき権利を喪失し、右権利は原告等に回復したもので原告等は同日以降本件土地の所有権者として右松茸の収取権を有するに至つたものと認むべきである。
仍て右事実に基き、被告組合に対し原告前川佐七、同前川かじが別紙第一目録記載の土地に於て、原告前川嘉郎が別紙第二目録記載の土地に於て各其の所有権に基き松茸を収取する権利を有することの確認を求めると共に、右権利を保全する為、被告組合が右土地に立入り松茸を採取することの禁止を求める原告等の本訴請求は結局正当に帰するから之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用の上主文の通り判決する。
(裁判官 原田久太郎)